「おい、生きてるか?」
私のパソコンに、メッセージが届いた。誰だ、わざわざわかり切ったこと聞いてくるやつは。私は今死んでるところなんだ。ムカついて、既読をつける前にたんまり時間を掛けてから、死体は返事をした。
「死んでる。」
「だと思った(笑)」
なにも笑うところなどないが。メッセージの送信主は、なめくじに塩を掛けるように、嫌味ったらしい人物のようだ。
「一応、心配だったからな。まぁ、昨日は色々あったが、おれとしては今後もがみーとは友達でいたいからな。それだけ言いたかった。」
「友達?」
「ああ。それとも、もうおれとは話したくないか?」
胸が痛む。話したくない、わけないじゃないか。私は昨日、君のことで散々、散々泣いたばかりなのに。どうしてそんな意地悪を言うのだ。
「話したいよ。」
「おお、良かった。」
「話したい、ってか、まだ聞きたいこと山ほどあるんだけど。」
「そうか。答えられる範囲でならいいぞ。」
偉そうな態度。なぜこうも、此奴は私の前で暴虐無人でいられるのだ。
「じゃあ、聞くけど。おれのことどう思ってるの?」
「どうって?」
「好きなのか、どうかだよ。」
「それ言っていいの?(笑)」
私に警告するように、質問に質問を返された。聞いたら私がショックを受けるとでも思っているのだろうか。昨日、これ以上ない無いくらいのショックは受けましたが。この◯◯野郎。
「いいよ。今更、なに言われても平気だよ。」
「じゃあ言うぞ。……結構好きやで。」
彼が忠告した意味が分かった。私の目からはまた、涙が溢れそうになる。それならなんで、なんで。
「その好きは、友達とかに対する好きと同じ?」
「うーん、俺自身そこはよく分かってないんだよな。loveになる時もあれば、そうじゃない時もある。」
「どういうこと。おれの時はどうだったの。」
「だから、好きだって。おれだってよく分からないんだ。誰かにこういうこと言うのは初めてだし。」
聴けば聞くほど、昨日の返事はなんだったのだろうと思う。私のことが結構好きで、たまにloveになるくらいで、でも付き合ってはくれないって、矛盾してないか。
「いや、意味わかんない。他の友達と比べて、おれのことはどれくらい好きなの。」
「だから、比べられないって。その時その時で違うんだから。」
「はあ?あの時、勃起してただろ。友達相手でも勃起するんですか。」
私は肉体的な証拠を突きつけた。画面越しの男から、確信をもぎ取りたい。
「友達同士ではしない。」
「じゃあ、おれとはどういう関係な訳。友達以上、恋人未満ってこと?」
質問責めに嫌気が差したのか、奴ははっきりとした口調で答えた。
「あー、わかった。じゃあこう言おう。がみーのことは好きだが、愛してはいない。これでどうだ。」
その言葉で、私の心臓は握り潰された。愛しては、無いのかあ。互いに勃起するくらいの関係になったけど、やっぱり叶わないのか。
「ああそうかい。じゃあ君は真実の愛とやらを、さっさと見つけられるといいね。」
「そうだな。」
私は皮肉を言ったついでに、もう一つの疑問を奴に突きつけた。
「君はゲイなの?」
「わからん。」
「じゃあバイ?」
「それも分からん。考えたこともない。」
彼の曖昧な態度を聞いて、曇っていた私の心からは大雨が降り出した。こういうずるいことを言ってくる奴は、そうだろう。こんな奴を好きになってしまったらそりゃあ、苦しいはずだ。
「おれはゲイだよ。もう純粋に、小さい時から男が好き。」
「初恋とかあった?」
「中1の時、その時は告白しなかった。ていうか、できなかったけどね。だから、告白したのは君が初めて。」
「そうか。慰めにしかならんかもだが、ゲイには天才が多いって聞くよ。」
「そうだね。ダ・ヴィンチも、三島由紀夫も、ゲイだったからね。」
偉人たちがゲイだったからなんなのか。私は、今目の前の男に振られた、ただのちっぽけな魂だ。供養させてくれよ。
「美大に来たのも、先輩にゲイをカミングアウトした作家がいたからだし。自分なりに、ちゃんと考えて生きているんだよ。孤独死したくないから。君は、ゲイの老人って見たことある?おれは1人も知らない。みんな老人になる前にいなくなる。少なくとも、おれは見たことない。」
「そうかあ。」
「それで、思い切って告白した結果、これだもん。もう人生嫌になるね。ほんと、俺何のために生きてるんだろう。死にたい。」
「……おれが言えたことじゃないけど、生きてればその内良いことはあるよ。」
「ほんとに、なんで、そのセリフを振った本人に言われなきゃいけないんだろう。」
「ははは。それもそうだな。怒ったか?」
「しね。」
「こえーよ(笑)まぁ、今はなに言ってもダメな時だろうからな。少なくとも、怒る元気があるなら大丈夫だ。」
「くそ。ほんとに、もう、死ぬほど、大好きでした!あーーー!!!」
思わず叫んだ。もちろん、チャット上でだが。こんな風に、ただ好きな人に好きと伝えていれば、結果は違ったのだろうか。
「いっそ殴り合いでもするか?」
「そうだね。肉体じゃ敵わないけど。君の方がゴツいし。」
「それもそうだな。」
深夜。パソコンのモニターが、私たちの決闘を映し出す。泣き腫らした私の顔は青白く照らされ、いじらしくマウスカーソルを動かす。スクロールして、彼に言われた"結構好き"という言葉を食い入るように読み返す。
私が振られた翌日だった。振った相手に心配してメッセージをよこすなんて、どう考えても人たらしだが、そんな彼を好きになってしまったのだから、恋愛は好きになったもの負けゲームだということがよく分かる。どういう育ち方をしたら、彼のような人間になれるのだろうか。私はどうしても諦めきれずに、彼に最後の質問をした。
「あのさ、こんなこと言ってなんだけど。どうしても踏ん切りがつきそうにない。君が曖昧な言い方するのも、我慢できない。直接、会って話したい。」
彼の返事が止まった。数十秒ほど間を置いて、既読がついた。
「いいよ。」
次の日、彼は我が家に来てくれることになった。前にここに来たのは数ヶ月も前になる。私は彼に伝える言葉を反芻しながら待っていた。
チャイムが鳴り玄関ドアを開けると、彼が立っていた。凛々しい顔つき。我が家の玄関では天井が低すぎるのか、身体が余っている。彼は私の方は見ずに、斜め下方向に俯いていた。
「おはよう。入って。」
私が家に入るよう促すと、彼は首を少し下ろしながら玄関に入ってきた。動きがぎこちない。以前、泊まりに来たときとは違い、家に入ることを身体が拒絶しているかのような、妙に不自然な動きをしている。
それを見て、悲しくなった。私たちはもう、以前のような関係ではなくなってしまったのだ。
彼は部屋に入ると、デスクチェアに腰掛けた。そわそわと、辺りを警戒するような目線。そんなに怖がらなくてもいいのにな、と思いながら、私は彼の前に立って話始めた。
「あのさ、この前。電話すぐ切っちゃったじゃん。」
「うん。」
「あの時、本当は全然わかってなくて。君が言ってたことも、わかりたくなくて、うまく話せなかったから、今日改めて言いたい。やっぱりおれじゃダメかな。」
彼は無言のまま、私に目を合わせない。
「男同士が怖いなら、おれが教えてあげるから。」
そう言って私は、肩に触れようとした。彼はビクッと身体を震わせる。このまま、唇に触れたい。私は顔を近づけた。
ガタリと椅子を蹴る音がした。彼は無言で立ち上がり、そのまま私を押し除けて歩き出した。肩を押されて体勢がよろめく。見ると、彼は玄関で靴を履き、ドアを押し開けようとしていた。
「待って、ごめん、ごめん!」
私は慌てて後を追った。一瞬、彼と目が合う。その視線は鉛のように重たく、冷ややかだった。彼は何も言わずにドアを閉めた。
蝶番が鳴る。反動でドアチェーンが叩きつけられる音がして、私は後悔した。やってしまった。彼を、傷つけてしまった。
その場に立ちすくみ、途方に暮れた。なぜ、あんなことをしてしまったのだろう。どうしても、身体に触れたかった。それは彼にとっては、恐怖でしか無かったはずだ。そんなつもりは無かったと、言い訳しても遅い。跡を濁した鳥は、群れから離れて孤立する。ジクジクと血が滴る羽を携えて。
私と彼の関係は、最悪の形で終わってしまった。そのことに幾つかの墓標を立てる。曖昧な関係を終わらせ、彼から言葉を引き出し、それでもなお求めようとする私は、愚かだろうか。愚かだろうな。それでも諦めきれない何かが、私を鎖で締め上げる。本能で動く身体を、理性で抑えることが出来なかった。
恋は呪いだ。
彼とはそれ以来、全く話さなかった。学校でも飲み会でも、目線を合わすことは無い。遠い位置に座り、互いの世界からそれぞれを消失させていく。ギクシャクした関係が、私たちの溝を深める。
友達には辛い顔を見せないように、気丈に振る舞っていた。しかし、現実は辛い。彼に振られたことは、一部の同級生には相談していた。だがつっかえが拭えるわけは無く、心に空いた穴は滲み出るインクのように広がっていった。虚無感が私を覆う。
バイトも仕方なく続けていた。隔週に減らしたシフトのせいで、前に覚えたことをすぐ忘れてしまう。出勤の度に怒られてばかりだ。物事は1つが上手くいかなくなると、次々に暗転するようにできているのだろうか。
私の存在とは、一体何なのだろう。この時期は、なにをしても気分が晴れることは無かった。
精神と身体を休ませたい。そう思って私は、冬休みを使い実家に帰省することにした。
実家までは車でも行ける距離なので、母に迎えに来てもらう。寒い雪の日だった。凍るような景色に、白い息を吐きながらひっきりなしに動く車のワイパーを見つめる。左右の動きは均等に、車窓にブラーを掛ける。
久々に帰った実家は、随分と小さく見えた。底冷えする床を靴下で踏み、その感触を確かめる。私が18年間を過ごした部屋は祖母が使っており、私の部屋は無くなっていた。しばらく部屋の中を歩き回る。以前からの変化は、洗濯物や、洗い晒しの食器を見てから気づいた。一人暮らしを始めて家事を自分でこなすようになり、家族がやってくれていた仕事にありがたみを感じるようになったのだ。
実家にはしばらくの間滞在する。私は、期間を有効に使うため、恩師に連絡を取ることにした。鉄矢先生に、電話で会う取り付けをする。そのついでにご飯を一緒に食べることになり、先生行きつけの居酒屋で落ち合うことになった。久々に会った先生は私服で、コートの下にジャケットをスマートに着こなしていた。
「調子はどうだ。一人暮らしは慣れたか?」
「最近、やっと慣れてきました。鉄矢先生もお元気でしたか。」
お土産話に花を咲かせる。学校の課題で作ったものを見せたり、高校の同級生の話をしたりした。林くんも、元気にやっているそうだ。
二人で乾杯して、飲み更けた。鉄矢先生はワイン、私はビールを頼む。あの日以来、ずっと気が滅入っていたのだが、お酒を飲むと気分が高潮して少し元気が出てきた。話も弾む。
刺身の盛り合わせが来た。地元の魚は美味い。安いのに量もあって、店を選ばずとも質の良いものが食べられる。将来のことを考えると地元には居たくないが、ご飯はやはり生まれ育った場所のものが美味しいと感じる。
しかし、ほろ酔い気分になっても、私がゲイであることやバイトがうまく行っていないことは言えなかった。誰かにわかってもらいたい気持ちを、皆どう処理しているのだろう。腹の底からわかり合えるような人に、私は会うことができるのだろうか。
鉄矢先生と解散してからは、家に引きこもって寝正月を過ごした。十日間ほどの滞在は、食べて寝ているだけであっという間に過ぎる。休息を欲していたのかも知れない。閑散としていた家の中は、私が来た事で賑やかさを増したようだ。途中、親戚が来てお年玉をくれたりした。もう大人だからいいよ。と断ろうとしたが、遠慮させてくれなかった。いくつになっても、お金に関してだけは甘えてしまう。
この頃、祖父はずっと座敷で寝ていた。私が大学に受かってから、身体の調子を崩したのは聞いていた。たまに居間に顔を出す時も、咳ばかりして見るからに辛そうにしていた。大丈夫だろうか、と心配することもできたのかも知れない。でも私は、特になんの心配もしてあげられなかった。ずっと居間で、携帯ゲームをしたりテレビを見たりしていた。
最終日。私は家を出るタイミングで、祖父に挨拶をした。
「それじゃあ、行ってくるね。」
「おう……。りゅうのすけ、行ってらっしゃい。」
消え入るような声が、掛け布団の向こう側から響いた。祖父と話すのは、これが最後になった。
その日、母から電話があった。
「りゅうのすけ、落ち着いて聞いてね。あのね。……じいちゃん死んだかもしれん。」
「え?」
下宿先に着き、一息ついたところだった。私は、母の言うことがにわかには信じられず、何度か聞き返した。
「さっきばあちゃんが、トイレでうな垂れてるところを発見して、今座敷に寝かしてる。身体も冷たいし、息もしてない。とりあえず、葬式もすぐ始まると思うから、あんたももう一回こっち来なさい。」
そんな。つい今朝まで、私と会話していたのに。
私は迎えに来た母の車に乗り、もう一度実家に戻った。実家に着き、座敷の扉を開けると、祖父は眠るように亡くなっていた。私は本当に死んでいるのか半信半疑で、祖父の枕元に座った。頬に手のひらを当てる。
「冷たい。」
自然と声が出た。目の前の光景が信じられない。冷水のような肌を触っていると、綺麗な寝顔と相まって、肖像画を見ている気持ちになる。しばらく、祖父の顔を見つめていた。
「ほんとに死んじゃったの?」
祖父に声を掛けてみるが、返事はない。
「さっきばあちゃんが拭いてあげたから。今は綺麗よ。結構、見つかった時は大変な状況だったらしいけど。」
振り返ると、母が上着の裾を両腕で掴みながら立っていた。
「葬式は明日になると思う。ちょっとバタバタするけど、こんな時だからこそ冷静でいてね。」
そういう母の目は赤く腫れており、先ほど泣いたのだろうか。不思議と、涙が出てこない自分がおかしいのかと案ずるが、おそらくまだ祖父が亡くなったことに現実味が持てないのだろう。
浮遊感のある一夜を過ごした。どんな夢を見たのかも覚えていない。起きてる間から寝るまでの間の記憶が抜け落ちている。たぶん、普段通り夕食を食べて、風呂に入って寝た気がするが、どこか放心状態だったように思う。
葬式の朝。会場は広々としていた。大きな煙突があり、祖父の遺体は霊柩車に乗せられ、荘厳に見送られる。会場は大きな花が沢山敷き詰められ、親族全員が真っ黒な服に身を包んで立っていた。無機質な匂いが鼻をつく。
一際大きな階段状の花壇の、中央に祖父の顔写真があった。
「あそこにじいちゃんおるから。顔見てきな。」
母にそう言われると、私は会場の奥へ進み、顔写真をじっと見た。少し中央からずれた、斜め顔の写真だ。祖父は真っ白な髪を鬣のように伸ばしていた。ちょうど、明治あたりの文豪のような顔つきをしている。
「生前の写真なんてなーんも残っとらんかったからね。どうせなら、最期にいい笑顔、撮ってやればよかったねえ。」
後ろで祖母が言う。ああ、本当にもうお別れなんだ。これから祖父は、焼かれていなくなってしまうのだなあ。
わたしのおじいちゃん。
子供時代、私の近くにはいつも祖父がいた。祖父の背中は大きく、いつもおんぶに抱っこをして貰っていた。仕事が自営業だったため、比較的家にいてくれることの多かった祖父は、お父さんの代わりをしてくれていたのだと思う。
河べりに、虫編みを持って駆けっこした。我が家の庭にホースで水を撒いたり、田んぼでおたまじゃくしを掬い上げたり、縁日に行っては、金魚を捕まえてきて家で飼ったり。
未練は、なかった。祖父は、きっと安らかに逝ったであろう。それは眠るように亡くなっていた顔つきからもわかるし、きっと、私が大学に受かって、安心してくれたんだろう。
私はしばらく、祖父の顔写真を見つめていた。すると、叔母さんが声をかけてきた。
「りゅうちゃん。大丈夫…?じっちゃま、亡くなっちゃったねえ。」
私に心配を掛けてくれる叔母さんの目は赤く、先ほどまで泣き腫らしていたのがすぐ分かった。
私も、こみ上げてくる思いを抑えきれず、涙が溢れた。声を上げて、みっともないってどこかで思いながらも止めることはできなかった。私が泣くのを見た叔母さんも、手で顔を覆い、必死に涙を堪えようとしている。
「りゅうちゃん。りゅうちゃん、大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫。悲しいね、そうだよね。みんなもそうだから、心配ないよ。大丈夫。」
式は粛々と執り行われ、祖父の入った棺はあっけなく燃やされた。灰になった祖父の遺骨を長い箸で淡々と拾い上げていくお坊さんの姿はどこか浮いていて、もう祖父は人間ではなく物になったのだなと思った。
巨大な煙突から煙が上がる。その煙は本当はただの煙なんだろうけど、もしも人間に魂というものが入っていて、死ぬとそれが出てくるのだとしたら。私は、その煙の中にきっと祖父が溶け込んでいて、天に登っていくように感じられると思う。きらきらとした、灰の粒子の中に眠る祖父がきっといたのだと思う。
式の後のことはよく覚えていない。母がとにかくずっと慌ただしくしていたことや、すぐに学校が始まるので自分も早々に下宿先に戻った記憶がわずかにある。葬式で散々泣いたからか、その後は涙は全く出ずに、自分でも驚くほど冷静だった。学校でクラスメイトに会って、なにを話したんだろうか。祖父が亡くなったことをどう伝えたのだろうか。全然思い出せない。
祖父の死は、私にとって初めての死だった。人は死ぬ、そんな当たり前の出来事を、身をもって痛感させられた。人生の一つの通過点であることは間違い無いが、終わってみればなんとあっけない物だったのだろう。突然現れて、台風のように慌ただしくすぎていった。
この頃の私の大学生活は、本当に暗黒期だった。心に覆う影がより深く、より濃く落ちていく。祖父の死は、私にこれから起こる不幸を先立って知らせてくれるものだったのかも知れない。私にとって、家族とは何か。そして、自分とはなんなのか。答えの出ない問いをぐるぐると、駆け巡っては呻く。退廃の予兆に、心が静かに震える。
下宿先で1人になって、ぼーっと死ぬことを考える。死ぬのは、怖い。痛いだろうし、苦しいかもしれない。でも、生きてるのは辛くないのか。
楽しいこともある。でも、辛いことの方が少し多いかもしれない。人生が天秤だったとして、その不幸の分量が大きくなって、秤が地面についた時、人は死という選択肢を選ぶのかもしれない。
私はまだ若い。死ぬにはまだまだ先があり過ぎる。だが、どうしても、死という得体の知れない物の影を追ってしまっている自分がいる。何故なのだろう、私は死にたいのだろうか。
もし安らかに、眠るように死ねるボタンがあるなら押しますか。
私は、押してしまうかもしれないな。
そう思って、同時に、そんなものあるわけないのにと、ふっと笑いが漏れた。