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就活失敗

『就活失敗』について

gammy-nyan.hatenablog.com 2019年の秋ごろから書き始めたこのお話が、ようやく終わりました。誰が読んでくれているのかもわからず、なんのために書いているかもわからず、ただ鳥肌が立つように打った文字の羅列が、このような物語を生みました。 それが何だ…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 24(〆)

春、私たちは卒業式を迎えた。その日は卒業生たちが思うがままに仮装をするのが恒例行事となっている。私も準備をする意識はあったのだが、どうにも重い腰が上がらず、前日にようやく家に残っていた布を縫って簡素な帽子を作った。特にテーマがあるわけでも…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 23

二月、私とフクロウくんは私たちが出会うきっかけとなったフラダンス部の女の子にお礼を言うために、彼女をご飯に誘った。大学からほど近い喫茶店で待ち合わせる。その喫茶店は名前の通りに落ち着いていて、店内にはアンティークの家具とバーカウンターが並…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 22

私たちはその後、何度かセックスをした。2人で寝そべってもまだ余裕のある大きさのベッドの上で、舌を絡ませたり抱き合ったり、いわゆる男女が行うようなことは一通りやった。そうすることが幸せだったし、相手が求めてくれることに応じることは私の中の欠け…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 21

大学4年の終わりに、私は大学を休学することを決めた。理由は病気のことや、家族関係、就活のことなど様々だ。大学5年生という聞き慣れない言葉は、私がいつの間にかレールから外れ、落伍者になったような、そんな嘲笑めいた響きを持って私にのしかかる。 何…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 20

「家族の話をしよう。」 雑多な室内。机上には薄紅、白、黄の花が描かれた小鉢が並び、茶びた牛肉、豆腐、枝豆を乗せてこじんまりと並んでいる。手元には透明なジョッキにたっぷりのビールが注がれており、その泡は時間が経っているせいか萎んでほとんど見え…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 19

耳元で蝿が飛び回る音がして、頭の中は執拗に掻き乱される。悲鳴にも似た地の底から唸るような響きが沸き上がってきて、私は私の感情に整理をつけ始める。これは怒り、これは悲しみ、これは慈しみ……サインペンで印をつけるみたいに身体の中を高速で駆け回る…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 18

「皆さんには黙っていましたが、私はゲイです。」 大学の工芸棟への続く広い通路を横断するように、生徒たちは列を作り、地べたに座り、私の言うことに耳を傾けていた。私を中心として波状に整列する様子は、真上から見たらまるで鉄球に吸い付く砂鉄のように…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 17

大学3年の6月。梅雨に差し掛かり、校舎にも薄紫や青色の花が咲き始めた頃。私たちは『紫陽花』という名前の他専攻を交えた飲み会に参加していた。 『紫陽花』は、デザイン科3専攻だけではなく、工芸や彫刻といったファインアートの学生も参加できる。土曜の…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 16

『アイデンティティ・ボックス』直訳で自分らしさの箱。私の大学で、3年次の最初に言い渡される課題だ。 自分らしさをテーマに作品を作る。タイトルに箱とは付いているが、別に箱にしなくてもいい。メディアも自由で、形状・大きさも自由。とにかくなんでも…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 15

土曜日。私はボンちゃんとの約束通り、20時にお店に着くように向かった。大学近くの下宿から、徒歩30分で着く繁華街。途中坂道があるので帰りは少し辛いが、徒歩で向かわなければ行けないのは冬のシーズンだけだろう。雪が無くなれば自転車を使えるので、慣…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 14

大学2年の冬。この季節、私の下宿がある地域ではかなりの雪が積もる。窓の四隅から漏れる空気が、部屋全体を凍らせる。底冷えするような寒さと地元では表現する。足元からくる冷えは、いくら暖房をつけていようとじわじわと部屋全体を寒さで飲み込んでいく。…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 13

お母さんの子になんて生まれなきゃ良かった。 RADWIMPSが出した『五月の蝿』という曲の一節だ。 私は高校時代ずっとRADWIMPSを聴いていたのだが、ちょうど大学生の頃にリリースされたこの曲を聴いて、私は当時の行き違いの果ての亀裂を、悔い、病んでいた。…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 12

「お願いがあります。」 私は薄暗い部屋の中で、私はベッドに仰向けになりながら電話を掛けていた。相手は、バイト先の店長だ。 「お願いって?」 店長が聞き返す。私は勇気を振り絞って、言った。 「バイトのことなんですけど、辞めさせていただけないでし…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 11

「おい、生きてるか?」 私のパソコンに、メッセージが届いた。誰だ、わざわざわかり切ったこと聞いてくるやつは。私は今死んでるところなんだ。ムカついて、既読をつける前にたんまり時間を掛けてから、死体は返事をした。 「死んでる。」 「だと思った(笑…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 10

「おはよう。」 彼からのメッセージが届いた。私はパソコンでネットサーフィンをしており、画面には私たちがこれまでにしたSkypeのやり取りが記録されている。 あの日から、私たちは定期的にチャットをするようになった。彼は、実家に帰省している間の何気な…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 9

プレ新歓から2週間ほど経ち、本番の新歓は行われた。 会場は大学から坂道を下って30分ほど歩いた繁華街の中にある、小さなライブハウスだ。長年美大のイベントに使われているようで、ライブハウスとしては老舗に入る。会場の足場は、学生に酒をこぼされまく…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 8

東日本大震災が起きたのは、私の合格発表の日と偶然にも重なった。 忘れられない3月11日からの一ヶ月、日本は自粛と規制と混乱のムードでどよめいていた。私は家に帰ってまず、テレビが全てニュース一色になっていることに驚いた。似たような経験は以前、同…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 7

高3の春から続いたスランプは、センター試験が終わるまで続いた。 希林の言っていた、"ぼやけた印象で描け"という言葉の意味を考えながら描いていた。だが答えは出ない。このままでは浪人する羽目になるかもしれない。鉛筆を握る手がギリリと唸る。こんな閉…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 6

高3を控えた春。前回の冬季講習で浮かれていた私は、美術室で1人でデッサンをしていた。鉄矢からの課題を黙々とこなす。途中どうやって描くかわからない部分があれば、東京藝大や多摩美・武蔵美の合格作品を見ながら描いていた。 私が受けようとしている大学…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 5

東京から戻った私は、しばらくの間放心状態だった。頭の中であの日の出来事を反芻する。たった2日の出来事とは思えないくらい、自分の中で何かが変化したのは感じた。しかし、それがなにかはよくわからない。夏休みが終わってクラスの馬鹿騒ぎが聞こえてきて…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 4

冬季講習でかなり自信がついた私は、そこから次の春季講習まで地面から1センチくらい浮いていた。たぶん、天使の輪っかもあった。学校生活で認められず、自分の見た目も好きになれない日陰者。そんな私に、1番が与えられたのだ。もっと褒められろ。見返して…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 3

春、高校2年生になった。私の科は2年になると、部活動推薦での受験を目指す1組と、勉強で資格を取り推薦を貰う2組に分かれる。もちろん私は2組だ。 この学校ではセンター試験を利用して受験をする生徒は皆無。大昔に1人だけ慶応に受かった人がいたらしいが、…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 2

扉を開けて出迎えてくれたのは3年の美術部の先輩だった。慣れているのか、くだけた感じで話してくれた。先輩はどうやら部長とのこと。男子生徒は自分だけで、他は全員女子と聞いていたので不安だった。ひとまず、挨拶した。部長は"ゆう先輩"と呼ばれているら…

就活失敗したゲイだけど死なずに生きてる 1

動け。動け、動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けう ご け よ私、頼むから、お願いだから、やってくれ。動いてくれよ。今日を逃したら人生が台無しになるんだ。今日頑張れば、明日も頑張…